Story

イラムティーを知ったのは10年以上前のこと。

ネパールに行くと頂くことがよくありました。

イラムティーは希少価値が高く、知る人ぞ知る紅茶なだけに、

高価そうな木箱に入ったイラムティーを頂いたこともあります。

 

 

でも、正直なところ好きになれませんでした。

イラムティーは味が繊細です。

それだけに、加工される過程で使用された金属の味が移っているのか、

雑味が混じっている感じがしてしまい、何度飲んでも美味しいと感じられませんでした。 

 

 

チリン君とは、REALE WORLD*の理事でもあるサントスのチームメイトとして出会いました。

(*REALE WORLDは、さまざまなプロジェクトやサポート活動を通して

多様性に満ちた社会の実現と変革を目指す認定NPO法人です。)

ユニフォーム姿でサッカーをプレーする彼はとても存在感がありました。

でも、実際に話すようになったのは、出会って2年も経ってからでした。

といっても、軽い挨拶を交わす程度。

彼はとにかくシャイで、グラウンドの外では存在を消してしまうような青年なのです。

 

 

ある日、そんな彼から紅茶が好きかと聞かれたので、好きだと答えると、

「お母さんが作っているから今度ネパールに来たらあげる」と言われました。

彼の出身を尋ねたら、イラムだとのこと。

イラムティーには心躍りませんでしたが、

チリン君がそう言ってくれたことはとてもうれしく思いました。

 

 

今でも、なぜ突然、チリン君が紅茶をあげると言ってくれたのかはわかりません。

REALE WORLDがチームをサポートしていたからお礼のつもりだったのかもしれません。

翌年ネパールを訪れたとき、チリン君は自分の村で採れた紅茶を持ってきてくれました。

彼はちゃんと約束を覚えていて、バスで何時間もかかるという村からわざわざ運んできてくれたのです。

素朴なビニール袋に入ったたくさんの紅茶をもらい、心があたたかくなりました。

 

 

日本に戻って、チリン君がくれた紅茶を飲んでみました。

驚くほどやさしくて、自然と涙が出てきて、心がスーッと浄化されていくような感じがしました。

とてもやさしい味で、気持ちが和み、初めてイラムティーを美味しいと感じました。

理屈ではなく、この紅茶が大好き!と思えたのです。

それと同時に、この紅茶をたくさんの人に飲んでもらいたい!知ってもらいたい!

という気持ちが湧き上がってきました。 

 

 

いてもたってもいられずチリン君に連絡をして、

この紅茶をたくさん作ってもらえるか尋ねると、快諾してくれました。 

もちろんこちらは購入するつもりで話をしたのですが、彼はお金などいらないと言います。

ネパールで何かをもらったとき、それが見返りを求めてのことだと知ってがっかりすることが少なくありません。

 

 

でもチリン君は全然違いました。 

だからといって、ただというのはフェアではありません。

そんなわけで、値段の吊り上げ交渉を3度ほど行い(!)、

こちらの考える適正価格で買わせてもらうことになりました。

 

 

それもこれも、味がやわらかで、やさしくて気持ちがほっとするチリン君の紅茶は、

他のイラムティーとは絶対に違うと確信していたからです。 

呼び名もイラムティーとは違うものにしたいと思いました。

 

 

チリン君の家族がつくったスペシャルな紅茶だから、チリンティーと名付けました。